人類発展の背景には言語の発明とそれを使った言語活動があると思っています

今日は言語化の限界についてお話ししたいと思います

言語化の限界

人は言語を使って話し手と聞き手の役割の中で対話を行います

このときの言語化のプロセスの中に、2つの限界があります

  • 人は事象を部分的に切り取ったものしか言語化できない
  • 人は言語化されたことしか認識できない

前者は話し手の限界であり、後者は聞き手の限界です

さらに話し手の限界には、事象の認知能力に関わるものと、言語化能力に関わるものがあるでしょう

認知することができなければ、素晴らしい言語化能力をもってしても言語化はできないでしょうし、例え認知できたとしても、それを言語化する能力を持っていなければ、相手に伝えることはできません

一方、聞き手は言語化されたことしか認識できないため、話し手の事情で欠落した事象を知ることができません

ゼロから情報を生み出すことができないのです

職場への影響

昨今、1 on 1ミーティングを導入する企業が増えてきました

1 on 1では部下が話し手、上司が聞き手となります

1 on 1では、部下は上司に仕事で経験したことや悩みなどを伝えて内省し、上司は部下に気づきを与えながら内省を促し、部下の自己理解、問題の把握、新たな目標の設定のプロセスを踏んで、部下の意欲を引き出しつつ成長を支援します

そこで使われるのは対話ですが、上記のような言語化の限界が存在すると、上司が早とちりをしたり、部下の周りで起きている事象を正しく認識できないことで、上司が部下を理解できないだけでなく、部下までもが自己理解、問題の把握をできなくなります

このようなことは、1 on 1だけでなく、報連相などの日常のマネジメント活動においても同様に起き得る課題となります

求められるマネジメント・スキル

このような課題を解決するために、聞き手である上司に求められるマネジメント・スキルについて考えてみます

まず、話し手の事情で欠落した事象を取り上げます

話し手が認知できない理由には、「自明なことであり改めて伝える必要がないと思っている」といった意図的なものが考えられます

また、伝えるべき事象が話し手の無意識の領域にあることなので、認知することができないものもあります

なので、聞き手である上司は、まずこういう状況があるということを理解することが解決の第一歩となります

話し手がその状況にあることを理解させるためにはどうすればいいでしょうか

それは、「問いかけ」と「問い直し」をするのがよいでしょう

話し手が言ったことに対して、

「あなたの言葉にある××は、どういうことですか」
「あなたの言葉を、わたしは××と理解したのですが、それで正しいですか」

といった問いかけや問い直しをするのです

これを繰り返すことによって、話し手は「私が自明だと思っていることは、上司にとっては自明ではないのだな」といった自分の考えを改めることができます

さらに「そっか、そんなことは考えたこともなかったけど、言われてみれば確かにそうだな」といった話し手による気づきという意識化をもたらすことができます

この「問いかけ」と「問い直し」は、話し手の「言語化能力の不足」という限界も補うことができるというおまけもつきます

相互理解と信頼関係を築くために

聞き手は言語化されたことしか認識できないため、話し手の事情で欠落した事象を知ることができませんが、補完することはできます

それが「問いかけ」と「問い直し」となります

一方通行のコミュニケーションで終わらせずに、この「問いかけ」と「問い直し」によって双方向の対話を心がければ、部下との間で相互理解が深まり、お互いの信頼関係を築くことにも繋がります