ビートルズの「ひとりぼっちのあいつ」を久しぶりに聞いた。

この曲の原題”Nowhere man”である。

ひとりぼっちのあいつは、何処にも行く当てがなく、ただ立ち止まっている、そんな男を歌っているのだろうけれど、ジョン・レノンがどいういう発想で作詞したのかは分からない。

改めてこの歌詞を読み、私が連想したものは、戸惑いの中にある男だ。

将来を夢見て、勉強し、希望の中で職に就き、生きるために働きながら、夢を追い求める。長い年月を経て、いつしかそんな男も様々な可能性が一つずつほころび始めて、ふと振り返ると、何のために働き続けてきたか分からないことに気づく。若い頃は沢山の可能性を感じていたが、いつの間にか選択できる未来も限られてきた。

「いつのまにか生きてゆく当てがなくなった」

そんなことを考えながら、一人部屋に佇んでいる、そんな男である。

これから彼が生を取り戻して生きて行くにはどうすればいいのだろう。

その答えは、自分自身にある。

そう”Nowhere”という単語の中にだ。

“Nowhere”にスペースを一つ入れると、その単語は”Now Here”(今、ここ)。

未来のことばかり見ていて力を落とすのではなく、今ここに目を開くのだ。

朝日の輝き、美味しい空気、それが呼吸とともに身体に入る感覚、街ゆく若者たちの笑顔と笑い声、透き通る若葉、小鳥のさえずり

当たり前だと見過ごしていた、今ここにあるものに新鮮さを感じ、生きる活力に変える。そして、目の前の課題に一つ一つ立ち向かって道を切り拓いていく。そんな心構えが必要だ。

ジョン・レノンが、そんな風に言いたかったかどうかは分からない。でも、この歌詞が、そう言っているようにも聞こえた。

“Nowhere man, the world is at your command”
(ひとりぼっちのおまえ、世界は君の手の中にあるのだ)

一つ一つ選択し、行動して作り上げた世界は、君一人だけのものなのである。