風土改革の同志からの退職挨拶メール
別会社に勤めているA君から、退職の挨拶メールを受け取った。
彼は組織風土改革に携わっている中心メンバーであったので、そのメールが届いたとき、少なからず驚きがあった。
「会社は違うけど、志を共にしたもの同士で情報交換しましょう」
と定期的に会っていた仲間の中の一人である。
2周り以上もの年下の彼は、とてもストレートに自分の意見を発言し、だれもが見逃しそうなことにも、素朴な疑問を投げかけ、周りの人を時にドキッとさせる。
「こういう人が組織にイノベーションを起こすのだろうなあ」と考えながら、エネルギッシュな彼を頼もしく感じていた。
退職に至った経緯が実直に書かれている彼からのメールは、彼の態度をそのまま表現しているようであった。
慣性モーメントの大きな組織に立ち向かって
その経緯で明かされていたことであるが、彼には明確なライフ・ミッションがあり、その実現のために入社した。そんな彼だから、担当する新規事業にはさぞかし熱意を注いでいたことであろう。
その仕事と同じように、組織風土改革にも取り組んだのだろうと思う。社内だけでなく、社外も巻き込んだプロジェクトを立ち上げていた。
しかし、そんな彼に対し「大きな慣性モーメントを持つ組織を、ついには動かすことができなかった」と印象づけてしまったようだ。
きっと、彼が進めていた事業を実現しようとするたびに、旧態依然としたモノが立ちはだかることの連続だったのであろう。
この会社で自分のライフ・ミッションを実現することの可能性の低さに嘆き、会社の外に自分が進むべき道を選んだのである。
彼が思い起こさせてくれたライフ・ミッション
彼のメールを読むうちに、
「このような自分のライフ・ミッションを持った社員が、イキイキと働くことができる組織に変革させなければならない」
と、私のライフ・ミッションを思い起こさせてくれた。
そして、そのことを彼に語りたくなり、メールを書き始めた。
書き終えたメールを読み返しながら、「思いを込めた文章を作れたな」と思って、送信ボタンを押した。
送った後、冷静な目で自分のメールを読み返して見た。
そこには、自分の思いばかりが書かれてあり、新天地での激励や、これまでの仕事ぶりを労う言葉が無いことに気づいた。
普通であるなら、退職挨拶メールに対する返答には、そういった言葉を並べそうなものである。
しかし、私のメールには一言も書かれていない。
年甲斐もなく、30歳の若者に対して、「何、熱くなっているんだよ」と冷や水を浴びせられた気持ちになり、次第に恥ずかしくなってきた。
「彼ほどの顔が広い社員であれば、たくさんの返答のメールに埋もれて、目に留まることもないだろう」と、半ば自分を慰めて、暫く放っておいたら、未読メールの中に彼からのメールを見つけた。
「数多くのメールをいただきましたが、ご自身のライフ・ミッションを語ってくれたのは、あなたからのメールだけでした。熱い思いが伝わってきました。嬉しいです。」
意外にも、私が恥ずかしいと思っていたことに喜びを感じてくれていたのである。
勝手な想像ではあるが、熱い思いを持って、慣性モーメントの大きな組織を一緒に動かしてくれる人が、彼の周りには少なかったのだろう。そのことを考えると寂しく感じていたのかもしれない。
決意を新たに
彼は自分のライフ・ミッションを実現させるために、ほかの会社に移ることを決めた。
こうして、熱い思いを持った若者が流出していく組織に残されている社員を、私は憂う。
私はこの出来事を見て、改めて自分のライフ・ミッションを肝に銘じ、彼のような若者がイキイキと働けるようになる会社に変えていかなければならないなと決意を新たにした。