前回、人間同士のコミュニケーションでは変換表を使ったコミュニケーションが行われており、その仕組みから傾聴を上達させるコツについてお話をしました
コミュニケーションの仕組みとして、もう一つ考慮しておかなければならないものがあります
それは文脈です
コンピュータ通信の国際規格に書かれていた「文脈」
私が仕事で文脈という用語を使い始めたのは、カウンセリングではなく、コンピュータ通信の用語としてでした
私事になりますが、その経緯からお話ししたいと思います
私が大学で研究していたテーマは、コンピュータ通信の制御方式に関するもので、それを数学モデルを使って有効性を証明するものでした
新卒で会社に入ったあともコンピュータ通信の研究を続けたいと思っていたので、その希望が叶う会社に就職し、コンピュータ通信の国際規格について調査研究を行っていました
今でもそうですが、当時のIT業界の最新技術は欧米が先行していたため、調査研究対象の資料はすべて英語でした
関連する国際規格を読み込みながら、その仕組みを理解し、実際にそのプロトタイプを開発して実験を行いました
前回お話しした変換表の仕組みも国際規格として規定されています
ある国際規格を調査していたときに、「context(コンテキスト)」という用語が出てきました
そして、通信を開始する前処理として「これから使うコンテキストを受信者へ知らせるために、送信者はその識別子を送信しなさい」と書かれていました
始めにこの資料を読んだとき、その意味していることがちんぷんかんぷんでした
そもそも理系出身の私には、contextという英単語に馴染みがありませんし、辞書で調べて「文脈」と分かったとしても、コンピュータにその「文脈」をどのように実装すれば良いのか分かりませんでした
その後、「コンテキストというのはコミュニケーションの理論を学んだ人には常識の用語であり、コミュニケーションに欠かせない役割を持つ」と知り、当時の自分の教養のなさに恥ずかしさを覚えました
やはり、理系の人であっても一般教養はしっかりと学ぶべきだと思います
一方で、このコンピュータ通信の国際規格を作っていた人も恐らくエンジニア出身の人であったでしょうが、コミュニケーションの理論を技術規格に取り込んでくるところは凄いなあと思います
国際規格の原案作りを主導していた人たちは欧米の方々でしたので、物事を演繹的に考えていく大陸系民族の奥行きの深さには勝てないなあと、つくづく思います
私だけかもしれませんが(汗)
文脈の役割
話しが脱線してしまいましたが、コンピュータ通信と同じように、人々で行われるコミュニケーションにおいても文脈が大切な役割を担っていることをここで示しておきます
このブログでも文脈について色々な記事を載せていますが、文脈の定義を齋藤孝さんからお借りるすると「ある事柄の背景や周辺の状況」となります
コミュニケーションを行う者同士が、あらかじめこの文脈を共有しておくことが、その後に行われるコミュニケーションに齟齬を無くすのに大切なことであろうことは、皆さんにも理解ができることと思います
上述のコンピュータ通信の国際規格で述べられている「これから使うコンテキストを受信者へ知らせるために、送信者はその識別子を送信しなさい」ということは、人々の間で行われているコミュニケーションでも実際に行われています
「君、あの件のことなんだが、ちょっといいかな」
「はい、あの件のことですね」
この二人のやり取りで交わされている言葉「あの件」というのが、コンテキスト(文脈)を示す識別子なのです
この二人は、これから行われるコミュニケーションの前に、そこで使われるコンテキスト(文脈)が何であるかをあらかじめ知らせておいてから、「あの件」に関するコミュニケーションを始めるのです
「あの件」に関する認識が二人の間で一致していれば良好なコミュニケーションが交わされるのですが、そうでないケースもあります
そのことについては次回にお話ししたいと思います(つづく)