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急速な都市化によりゴミ処理能力が追いつかず、街中にゴミが散乱していた昭和30年代の東京は、「綺麗な東京でオリンピックを迎えよう」という東京都民の価値基準の共有と、「自分たちの街は自分たちで綺麗にする」という自律的な行動と、ニューヨーク式のゴミ回収システムによって、クリーンな東京に生まれ変わったことを前回お話ししました
自律的な行動を促すためには、その担い手だけに求めるではなく、その行動を起こしやすい環境作りをすることが大切であることが、ここから分かります
ここではその環境づくりについてお話しします
自律的な社員を育む環境づくり
ポジティブな雰囲気づくり
戦後の高度経済成長の真っ只中で、国をあげての一大イベント「東京オリンピック」を成功させようという機運が国内で作られていたことでしょう
このようなポジティブな雰囲気は、「東京オリンピックを綺麗な街で迎えよう」という活動を市民に浸透させるには重要だったと思います
「自分たちが自ら街を綺麗にしないといけない」という意識を植え付けることは非常に難しいと思います
子供に掃除の躾を教えた経験のある親御さんであれば、納得できることではないでしょうか
「自分たちが自ら街を綺麗にしないといけない」ということに共感させるにはポジティブな雰囲気を作り、自分たちはその雰囲気の当事者であるんだと感じさせることが大切です
企業の理念の浸透させるには感情に訴えかける
企業において自社の理念を浸透させるのは大変難しいものです
創業間近の企業や業界のトップリーダーである企業であれば、社員もその当事者であるという意識が自然と出てきて、会社の理念の理解が得やすいとおもいます
しかし、そうでない企業は自社の理念を社員に浸透させるのに苦労をしていると思います
特に新たな事業に方針を変えたり、会社を生まれ変わらせるといった活動の中で、新しい理念が迫られている場合は、多くの苦心を伴うと思います
そんなときに、昭和の東京オリンピックがもたらしたポジティブな雰囲気というものが、理念の浸透のヒントになると思います
理念というのはどちらかというと人の理性に訴えかけるものです
ポジティブな雰囲気は感情に訴えかけるものです
理念ばかりを押し付けると「理解できるけど、やる気が起きない」という状態になりがちなので、感情で右脳に訴えかけることも必要になると思うのです
仕事は一人で成し遂げることはまれで、周りの人の協力なしではいられません
人びとの繋がりをもたらし、一体感のある組織を築くためには、感情に働きかけ人を動かすことが必要となります
また「東京オリンピックを成功させる」といった夢を語るというのもポジティブな雰囲気作りに有効だと思います
信頼関係を築かせる
このポジティブな雰囲気づくりができて、「綺麗な東京でオリンピックを迎えよう」という価値基準が共有されている状態は、人々のベクトルが合っている状態です
このようになれば、「ゴミのない綺麗な街並みにしよう」といった行動を引き起こす準備ができます
しかし、これだけでは社員は自律的な行動を起こしません
「ゴミのない綺麗な街並みにしよう」といっても一人ではできるものではないからです
いきなり汚い街に放り出して、街中に散らかっているゴミを一人でゴミ拾いをさせるようなものです
「この人となら一緒にやっていける」というような信頼関係に結ばれた組織作りが必要です
「私のすることは分かっている」、「彼らのすることも分かっている」というように役割をはっきりとさせ、この仲間となら安心して仕事に専念できるといったチームワークを作るようにします
信頼関係を作りには、そのベースに好意的な感情を作ることが必要です
なので社員同士の信頼関係を築くには、好意的感情を育む施策が有効です
そのためには「お互いに知らないことが多い」ということを認め合って、知る努力を続けることで好意的感情を作ることができます
好意的感情が生まれ始めれば、「相手をもっとよく知りたいし、自分を知って欲しい」、「気を許して安心したい」という親和的欲求が生まれる他に、援助的欲求の「相手を助けてあげたい」、「困ったら相談してあげたい」という気持ちや、依存欲求の「何かあったら助けて欲しい」「一緒にいたい」という気持ちが生まれ、このことが相手との対人関係をより強固にします
このような信頼に結ばれた人間関係は「ゴミのない綺麗な街並みにしよう」といった大仕事を成し遂げるには極めて重要です
そして、一度このような関係が築かれると、社員同士でホンネのコミュニケーションができるようになります
言いたいことが言える関係がつくれば、例えば自分が考えていることを正直に話し、そのことが周りの人に受け入れることができるのかそうでないのかといった自分の考えの正当性が確認できます
社会の正当性を確認できた行動は自信に繋がり、失敗を恐れない、主体的な行動を生みます
そして社会に認められた物差しが個人の中にできあがり、その物差しで自らを律するような行動、すなわち自律的な行動をおこす社員となります
自律を育む環境を作る
以上のような組織作りは、社員の自律性を育む環境となりますが、この組織作りに加えて、社員の行動をサポートするシステムを作ることも大切です
昭和の東京が「クリーン東京」を築くようになったのは、ポリバケツを配布したり、回収車を巡回させたりして、ゴミ回収のシステムを作ったことは、前の記事でお話ししました
これとおなじように、社員の自律の芽を大きく成長させていくようなシステムを会社の中につくることも大切です
社員に一方的に自律を求めない
先の見通せない世の中になり、社員に自律を求める声が大きくなってきました
会社も昔のように時間をかけて社員を教育する余裕もなくなったのか、自律的な社員になることは社員の努めと言わんばかりに会社が一方的に求めているだけのように見えます
しかし、それはニューヨークで社員1人にゴミ拾いをさせるかのような行為です
このシリーズでは、自律的な社員になることを社員に求める前に、会社が「自律的に働きやすい環境を作ることが大切である」ことをお伝えし、そのための方法について考えてきました
心当たりがあるようでしたら、参考にしていただければと思います
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