現在の日本には身分制度がないのですが、会社の上司に気軽に物を申しにくいのが一般的ではないでしょうか

特に平社員と経営者の間のように職位が広がると尚更です

小林製薬は失敗を許容する

日経ビジネスのネット記事に小林製薬のことが書かれていました

そこで2013年に就任した小林章浩社長は、新商品の時期にだけ売れるのではなく、長期にわたって売れ続けるブランドやカテゴリーの育成にかじを切った。その育成の過程では、商品や販促施策に失敗があっても、じっくり育てることを優先している。

失敗→次の策で挽回、小林製薬のブランド育成術:日経ビジネス電子版

小林製薬は失敗を許容する文化を作っているそうです

部下の失敗を許容せずに上司が失敗を責めたり、「あれやれ、これやれ」と指示を出されたりすると、部下はもう何も言いたくなくなるものです

例え失敗したとしても、そのことを責めるのではなく、そこから学ぶことを重視しているのが小林製薬です

日本は権力格差が大きい社会

「武器になる哲学」で紹介されているのですが、オランダの社会心理学者であるヘールト・ホフステードは「上司に向かって反論する際に部下が感じる心理的な抵抗の度合い」について研究した人だそうで、その度合いは民族間で差があることを示したそうです

引用します

ホフステードは権力格差を「それぞれの国の制度や組織において、権力の弱い成員が、権力が不平等に分布している状態を予期し、受け入れている程度」と定義しています

例えば、イギリスのような権力格差の小さい国では、人々の間の不平等は最小限度に抑えられる傾向にあり、権力分散の傾向が強く、部下は上司が意思決定を行う前に相談されることを期待し、特権やステータスシンボルといったものはあまり見受けられません

これに対し権力格差の大きい国では、人々のあいだに不平等があることはむしろ望ましいと考えられており、権力弱者が支配者に依存する傾向が強く、中央集権化が進みます

「武器になる哲学」山口周

そして日本は権力格差が大きい国であることが彼の調査で分かっているそうです

小林製薬の工夫

権力弱者である部下が上司に対して「意見を言いにくい」、「失敗したことであれば尚更言いにくい」ことは想像に難くないことです

この状況を放置しておけば新製品の開発のようなイノベーションは決して起きないでしょう

会社のトップである小林社長自ら、以下のようにして部下に接しているそうです

「考えて実行した計画が失敗しても、分析して次の手を提案できれば、社長は何も言わない」(振吉氏)

失敗→次の策で挽回、小林製薬のブランド育成術:日経ビジネス電子版

小林製薬がホフステードの権力格差に倣って失敗を許容する社風を作ったのかはわかりませんが、社長自らが部下の知恵や意見を積極的に聴こうとしている姿勢がここから分かります

さらには失敗を関係者の間で共有することで、言いにくいことでも言いやすくし、チャレンジする精神を育んでいるそうです

これならイノベーションも起こしやすいですよね

組織の文脈にあった仕組み作り

私は組織には文脈があると思っています

文脈とは、齋藤孝さんの定義によると「ある事柄の背景や周辺の状況」です

マネージメントには組織が持つ文脈を把握することが重要です

そうしないと間違ったマネージメントが過ちを犯してしまうからです

ホフステードは以下のように指摘しています

権力格差の小さいアメリカで開発された目標管理制度のような仕組みは、部下と上司が対等な立場で交渉の場を持てることを前提にして開発された技法であり、そのような場を上司も部下も居心地の悪いものと感じてしまう権力格差の大きな文化圏ではほとんど機能しないだろう

「武器になる哲学」山口周

日本は権力格差が大きいという文脈を理解しないと、折角の制度も機能せず、権力弱者である部下の有益な声を聴くことができません

上司がこのことを理解し、部下の声を聴ける仕組み作りをする役目を自覚できれば、小林製薬のように「社員の知恵や意見を積極的に聴ける仕組み」を作るでしょう

その仕組みが部下の知恵や意見を組織で流通させ、イノベーションを起こし、経営者と社員にとって働きやすい職場を作ることができるのです