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竹倉史人さんの著書「土偶を読む」を読みました

今回はその著書についてお話しします

謎解きの新たなアプローチ

考古学者でも縄文研究者でもない著者が土偶の謎を解いていくというお話です

大辞林によると、土偶は主に呪術的・宗教的意味をもたせて作られたと書かれています

これに対して著者は「土偶は縄文人が食べていた植物を型とったフィギアである」という仮説を立てています

「見た目が似ているからって、たまたまじゃないの?」と思う方もいるでしょう

「この見た目の酷似は偶然によるものである」という可能性を著者は本書で最大限に棄却しようと試みています

その試みとして、専門である人類学的手法を主軸に植物史や環境文化史などの研究結果を引用し、あくまでも実証主義に基づいて説きます

これが読者に納得感を与えます

本書を手にとっていただければそのことがご覧いただけると思います

私はハート型土偶でそれを味わうことができました

また著者の専門である人文学者らしい解説として、土偶は生活から遊離された呪術の道具として使われたものではなく、生業の遂行に関わるプラグマティックな実践行為として使われたという説明にも納得させられます

遺跡から発掘された土偶の中には明らかに人の手によって破壊されたものが多いそうですが、著者の説明によるとこれは意図的な破壊なんだそうです

私たちは人形をそのままゴミとして捨てるのをなんとなく躊躇し、神社に人形供養をするのと同じように、縄文人も単なるゴミとして土偶を遺棄するのではなく、破壊することで土偶を脱魂させたのではないかと著者は考えます

私たちのDNAにも縄文人のそれが受け継がれているのかもしれませんね

クロスジャンル研究が導くイノベーション

著者が「リベラルアーツを重視したクロスジャンル研究」と称している、この土偶の謎解きアプローチは学術研究のみならず、ビジネスの世界でも通用するのではないかと思います

行き詰まりを感じているアジェンダをお持ちの方はお試し下さい

偏ることなく多面的な知恵を導入することで、解決へのブレイクスルーに導き、イノベーションの実現へと結ぶことになると思います

既得権益層からのアカデミズムの解放

著者が最終章で「現代の知性の危機」として、学問の縦割り化とタコツボ化、そして感性の抑圧など、学術分野の官僚化を指摘していますが、これはビジネスの場面でも見られると思うのは私だけではないと思います

著者がこの土偶研究成果を発表しようとしたところ、関係各所から「考古学の専門家のお墨付きをもらってください」と言われたり、「我々考古学の専門家を差し置いて勝手に土偶について云々されたら困る」と言ったクレームを入れられたそうです

これは既得権益層による圧力ではありませんか

まるで政治や経済の世界を見ているようです

著者はこの状況にほとほと困り、自分の研究成果は日の目を見ずに終わるのではないかと思い込むようになったそうです

結局、周りの多くの協力者によって上梓に至るのですが、著者のように既得権益の層に阻まれて自分の着想したアイデアを世の中に公表できずにいる人は他にもいるのではないでしょうか

そういう人たちにも本書を手に取って著者から勇気をもらって欲しいと思います

私は企業の風土改革の研究に携わっていますが、中々盛り上がりに欠くところがあり、埋もれかかっています(汗)

もう少し頑張ってみようかと思いました