動的平衡
少し前に生物学者の福岡伸一さんが「動的平衡」という考え方を示してブームになりました
生命を細胞レベルで考えると、ひとつひとつの細胞は古いものから新しいものに置き換わっており、1年も経つと人間はすっかり入れ替わっていると説明して世間を驚かせました
細胞レベルで見るとダイナミック(動的)に変わっているのですが、人間個体でみると同じ形の状態にある(平衡)ということで「動的平衡」というのだそうです
では、細胞レベルで入れ替わっていたら、どうやって人間は記憶しているのかという疑問が湧きます
細胞が入れ替わるのですから、記憶も消えそうですよね。彼の説明では、脳細胞が入れ替わっても、細胞同士の関係は維持されているので、記憶が保持されるそうです
エントロピー増大の法則
話は変わって、エントロピー増大の法則という変えることのできない宇宙の法則があります
これは「万物は秩序ある状態から無秩序の状態への遷移する」というものです
みじかな例で言えば、どんなに堅牢な建物であっても風化というプロセスを通じて形を失っていくことと同じです
仏教の教えでいうところの諸行無常でしょうか
老化の仕組み
人間もその例外ではなく、滅びていく運命にあるのですが、細胞を入れ替えるプロセスを通じて、エントロピー増大の法則に反抗しているのだそうです
しかし、どこかミスや損傷が残って滞留します
これが老化なのだそうです
動的平衡を保てない組織は老化する
生物学者の福岡さんは、現在、人文系、特に哲学に研究範囲を移しているそうです。これまでは生物を研究対象にしてきましたが、動的平衡の考え方は、生物だけでなく、より広い範囲で応用可能ではないかと考えているそうです
楽しんでいますねぇ、福岡さんは
私はこの話を聞いた時に、動的平衡の考え方は企業の組織にも当てはまるのではないかと思いました
長い年月の中、職場レベルで見ると社員はダイナミックに変わっているのですが、企業レベルでみると同じ形の状態にあり、動的平衡と言えそうです
社員は入れ替わっているけど、脳細胞でいうところの記憶は企業文化として保持されていく
しかし、企業も例外なくエントロピー増大の法則を避けることができず、秩序ある状態から無秩序の状態という崩壊に遷移する
それに反抗するために、細胞の入れ替えプロセスに相当する行為を行っているのだけれども、ミスや損傷が残って老化という現象が現れてしまう
組織風土の問題は、エントロピー増大の法則によって動的平衡を保てない組織の問題と言えそうです