「陽炎の門」(葉室麟)を読んだ。

主人公主水は、綱四郎(妻由布の父)という友と主水に憧憬する若者与十郎がいた。暴君興世の策略の中で、二人を自らの手で死なせたことに苦しむ主水に、由布が伝えた言葉、

「すべてのひとは永久(とこしえ)に生きられはいたしません。ですから、自らの命を託す相手と出会えた者は、それだけで幸せなのではないでしょうか」

が印象に残った。

「人はなぜ生きるのか」、「死ぬとはどういう意味を持つのか」という問いに、答えを与えてくれるのではないかと漠と感じたからだ。

仏教の啓蒙本だったと思う。「命をつなぐ」ことが書かれていた。父母、祖父母と先祖をたどっていくと何千、何万の命を継いで今の自分があるような話しであったと思う。

子を持つと言うことは、最も基本的な「命をつなぐ」であり、命を託すである。

しかし、「命を託す」は必ずしも血縁関係に依らない。綱四郎と与十郎は他人である主水に命を託した。

血縁関係であろうとも、友情や師弟などの人間関係であろうとも、命を託され、今を生きると言うことは重いことである。

それだけに自分の命を粗末にしてはならない。