チンパンジーと人間の認知スタイルの違い

京都大学霊長類研究所の松沢哲郎教授がVideonews.comに出演した番組を見ました

松沢教授はチンパンジーの心の研究を通じて、人間の心や行動の進化的起源を研究している方です

彼によると、チンパンジーと人間には認知スタイルの違いがあるそうです

チンパンジーは、見たもの全体を一瞬で読み取る能力に優れており、さながらフォトグラフィックメモリーを持っているかのような認知をするそうです

一方、人間は、見たものをぼんやりとしか読み取らないのだけれども、その意味や背景に自ずから意識が向くような認知をするそうです

松沢教授は、人間のその認知スタイルを「見えないものを見ている」と言います

いわゆる「想像する力」ですね

チンパンジーと三才の子供の実験

チンパンジーと三才の子供に、顔の輪郭を書いたイラストを渡して、その上に自由に絵を描くように指示すると、チンパンジーは一生懸命に顔の輪郭をなぞるのですが、三才の子供は顔の輪郭を見て「目が無い」といって目と鼻と口を書くそうです

輪郭しかない顔に、三才の子供は目と鼻と口を見ているのですね

なお、1,2歳の子供に同じことをさせると、チンパンジーと同じような行動をすることから、三才を境に「見えないものを見る」力が身につくのではないかと考えているそうです

「見えないものを見ている」、これが比較認知科学から見た人間観です

チンパンジーは絶望しない

松沢教授は病気で半身不随のチンパンジーの逸話も紹介しました

寝たきりで動けないチンパンジーは、水を口に含むと水鉄砲のように「ピューっ」と世話をする人に水を吐くいたずらをしたそうです

このいたずらは半身不随になる前の元気な頃にもよくやっていたことだそうです

松沢教授は、人間が同じように半身不随になったら、その先の人生を嘆いたり、なんで私がこんな目に遭うのだろうかと簡単に絶望してしまうが、チンパンジーはその様な状況になっても水鉄砲のいたずらをするように、絶望することなく、今ここを生き抜くことに長けていると説明します

同じ番組に出演していた宮台真司さんは「チンパンジーは『もし〜だったら〜なのに』という仮定法の考え方がないんだ」と説明していました

「もし半身不随でなかったら、こんな寝たきりにならずにすんだのに」と考えて絶望してしまいますからね、人間は

人間は、「見えないものを見る」力や、仮定法のような考え方をすることで、文明を発達させてきました

サピエンス全史の著者であるユヴァル・ノア・ハラリ教授がいう「フィクションを信じる力」です

一方で、その力が原因で、将来の不安に悩んだり、メンタルなどの心の病にかかったりします

今ここを生きるための修行をすることすらあるのです

人間が持つ能力は、諸刃の剣ですね

チンパンジーに生き方を学ぼう

チンパンジーの認知スタイルから我々が学ぶことは何があるでしょうか

もしあなたが心配性で困っているというのであるなら、あなたは人間としてかなり進化しているということもできるでしょう

普通なら考えられない領域まで心配できるほどの想像力があるからです

「私は超進化した人間である」と思い直して、細かなことにも気づける、用意周到な人なんだとポジティブに考えるようにして下さい

もしあなたが絶望している人であるなら、「もし〜だったら〜なのに」とばかりに考えるのではなく、半身不随のチンパンジーのような今ここを生きる姿を学ぶことで安らぎが得られるかもしれません