組織風土が社員の仕事意欲に影響を与えるという説明に、K.レヴィンの「場の理論(*1)」を使いました(こちら

そこでは、「場」について詳しく述べていなかったので、ここでお話ししたいと思います

ある経営幹部の言葉

先日、経営幹部と話しをする機会がありました

職場で進めている働き方改革の活動に関する打合せです

その経営幹部は、「うちの職場では、社員に『自律性を持つように』と働きかけている」と言いました

なるほど「自律的な社員になって欲しいということだな」と理解しましたが、ふと不安が頭をよぎりました

その不安とは「社員に面と向かって『自律的に動いてくれ』と働きかけていないか?」というものです

少し考えれば分かることですが、この『自律的に動いてくれ』という働きかけは矛盾を含んでいます

というのも、この『自律的に動いてくれ』という働きかけ自体が、社員の自律的な行動を抑制する行為だからです

「経営幹部と職場の社員の関係は、上から下へ与えられるものだ」という心理的な場をこの職場が持っているとしたら、この経営幹部が願うような自律性を養うことは難しいでしょう

このように、職場が持つ場というものは、人の行動に影響を与えるというのが、レヴィンの説く「場の理論」です

集団は心を持つか?

山口裕幸さん著書「チームワークの心理学」に、場の理論が現代の社会心理学に与えた影響を説明しいました

よく分かりやすい説明でしたので、ここで概要をご紹介させて頂きます

人が集まって集団を作ると、群集心理という言葉があるように、集団にも心があるのではないか?というテーマが上がって、群集心理を研究した時期があったそうです

心理学は自分が編み出した理論が正しいことを証明するために、客観的な証拠を揃えて証明する科学的なアプローチをとります

ところが、集団に心があることを確かめるためには、集団に訊くわけにも行かないので、その集団に属する人に質問をして証拠を揃えるしかありません

この方法だと、集団の心を客観的に測定することができないので、結局心は人間しか持たないということになり、群集心理を研究する人が少なくなっていきました

そこで登場するのがレヴィンです

レヴィンは「集団は心を持たないが、人が集まるとお互いに影響を及ぼし合って心理的な「場」を作る」と主張しました

磁石が集まると磁場を作るのと同じような考え方です

そして、集団としての「場」の特性が、人の心理や行動にどういった影響を与えるかを研究したそうです

「集団は心を持たないが、集団に属する人の持っている心がお互いに影響を及ぼし合って、集団の特性を作っている」とレヴィンは主張し、集団力学(グループ・ダイナミックス)という研究を行うようになります

風土改革のヒント

この場の理論をどのように風土改革に利用すれば良いでしょうか

件の経営幹部の職場を例にとって説明すると、まずその職場にどのような心理的な場があるかを特定することから始まります

この例では「経営幹部と職場の社員の関係は、上から下へ与えられるものだ」という心理的な場がありました

そして、その場は職場に属する人たちの真理や行動にどのような影響を与えているのかを見極めます

この例では「部下は上司の指示を待つことになり、自律的な行動を抑制する」という影響が与えられているということが分かるでしょう

その影響が望ましいものではないということになれば、現在職場に存在している場を解消するような介入を風土改革の活動として行えば良いことになります

(*1)Lewin,K.(1951).Field theory in social science : Selected theoretical papers. New York, NY : Harper.(レヴィン,K.猪股佐登留(訳)(1979).社会科学における場の理論 増補版 誠信書房)