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前回は職場における哲学カフェのメリットについてお話ししました
ここでは、哲学カフェがどういった流れで行われるものなのかをお話しし、その進行をつかさどるファシリテータの役割、必要となるスキルについてお話ししたいと思います
哲学カフェの流れ
哲学カフェで行われる対話は、哲学的思考に従って流れるとこの記事で書きました
初めに「問い」を立て、その問いについて自分の考えを周りの人に語り、他の人たちはその考えを自分の考えと照らし合わせながら聴き、新たな「問い」を立てていく、というサイクルを回します
ある人が語っている最中に、他の人が割り込まないように、ファシリテータは参加者の発言の制御をします
具体的な制御の方法ですが、ファシリテータは1つの「トークン(発言権)」を用意し、発言する人に渡します
「トークンを持っていないと発言できない」ことをあらかじめ参加者に伝えておきます
トークンは発言権を示すシンボルで、実際はボールとか小さいぬいぐるみのように手渡しできるものを使います
トークンというのは通信用語で、通信路上でデータ衝突を避けるために考えられた方法でした
トークンを持っている装置だけがデータを送信するように決めておき、同じ通信路につながっている装置の間でトークンを順番に渡すようにすれば、データの衝突を起こさずにデータの送受信ができます
私がネットワーク関連の仕事をしていたので、勝手に「トークン」という用語を使っていますが、世の中で行われている哲学カフェでは何と呼んでいるかわかりません(笑)
脱線してしまいましたが、このようにして、ファシリテータは参加者の発言を制御して哲学的思考のサイクルを保つように対話を進行します
ファシリテーターのスキル
以前、有志4名と哲学カフェをやったときに私はファシリテータを務めました
そのときに気づいたファシリテータに求められるスキルをこちらの記事に列挙しました
その内容は以下の通りです
- 発言を簡潔にまとめる力
- 参加者の発言を聴き、話の流れを掴む力
- (その流れから)新たな問いを立てる力
上述した哲学カフェの流れとこのスキルとの関連を説明します
1.のまとめる力は、発言者が語った後に、その発言を簡潔にまとめる力です
発言者の中には、要点を定めずに考えながら発言する人もいます
話しが冗長だったり、重複、欠落があったり、方向性も変わりやすくなります
ファシリテーターは傾聴技法の「簡単受容」と「事柄への応答」を使って、発言者が話しやすいように促しながしつつ、不明点を解消させる質問を交えながら、発言者の意図する要旨を掴んでいきます
発言が終わった後に、ファシリテータは掴んだ要旨をまとめて伝え返します
これによって、発言者が述べた内容を正確に把握できたかを発言者に確認できますし、周りの参加者に発言内容を理解しやすくできます
要旨の伝え返しにかける時間ですが、長くても30秒、できればその半分ぐらいにとどめます
それ以上になると、周りの人が要点を理解できませんし、哲学的思考のテンポを崩しかねません
2.の流れを掴む力は、連なる発言の中からどういう方向に話しが流れているのかを掴んで、新たな問いを立てるための準備とします
傾聴技法の「事柄の応答」を行うと、キーワードを拾うことができます
そのキーワードをメモに取っておくと、後から流れを掴むことができますし、1.のまとめる力で伝え返す要旨でも使えます
また、あとから「そういえば、Aさんは先ほど×××と言っていましたね」と引用することもできます
3.の新たな問いを立てる力は、2.で得た話しの流れの中から新たな問いを示します
問いには、HOW(どうすればいいのか)、WHAT(それって何なのだろうか)、WHY(なぜだろうか)という種類がありますが、哲学カフェではHOWよりもWHATとWHYの問いを使います
「存在」や「意味」を問うような質問です
テクニックを問うHOWは、上っ面の議論になりがちで、物事の本質に切り込むことができないので、哲学カフェではあまり使わないと思います
良い問いが立てられると、参加者の思考が深まりますので、ファシリテータの腕の見せ所となります
ファシリテーターの仕事
ファシリテータに必要なスキルを見てきましたが、ファシリテーターの仕事をまとめると以下のようになります
- 哲学的思考をナビゲートする丁寧な進行
- 心理的安全性の確保
- 自らも探求
- 沈黙への正しい対応
- 振り返り
1.はこれまで述べてきたとおりです
2.は何を言っても良いのだという雰囲気を作る仕事です
他の発言者の発言を否定するような発言があった場合は、注意を促し、何を言っても良いのだという場を作ります
3.は自らも探求心を持って進行すると自然と新たな問いを立てられるようになります
知的好奇心の高い方であれば、専門外のテーマであっても探究心を持ってファシリテーションができます
哲学的思考を続けているうちに、誰も発言しなくなり、沈黙が場を支配することがあります
このとき、ファシリテータは、沈黙の気まずさや不安な気持ちから、急いで沈黙を破るような動きをしてはいけません
立てられている問いに対して、参加者が考えているケースがあるからです
その様な場合は、ファシリテータは黙って待つことが必要です
しかし、参加者の視線がファシリテータに向けられ、ファシリテータの進行を待っているときは、ファシリテータは適切に進行をしなければなりません
これが、4.の沈黙への正しい対応となります
5.の振り返りは、哲学カフェの終わりで行うことです
こちらの記事で哲学カフェの目的を次のように定義しました
ものごとの本質を筋道立てて考える哲学的思考の体験を通して、参加者の様々な意見に触れながら、自分の持っている「ものの見方・考え方」を持続的にアップデートすることを目的とする
この目的の達成を確認するために振り返りを行います
ファシリテーターに向いている人
ここではファシリテータのスキルや仕事についてお話ししましたが、こうしてみるとファシリテータに向いている人は、カウンセラーであるなあとつくづく思いました
私自身は産業カウンセラーですが、カウンセリングの勉強をして学んだことがここにあげられているからです
カウンセラーの資格を持っている方は、是非哲学カフェのファシリテータにチャレンジして欲しいと思います(つづく)