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前回は、社員意識調査の質問項目の設定の考え方についてお話ししました
私が考案した組織風土再生モデルにある4つの職場のレベルに合わせて、質問項目を用意すれば良いこともお話ししました
ここでは、4つの職場のレベル別に、対応する質問項目をご紹介します
レベル0:沈黙の職場
このレベルの職場は次のような状態です
・社員は孤立しており、周囲とのコミュニケーションが少ない ・組織は縦割りであり、横串を通した活動が行われない ・社内のコミュニケーションはトップダウンであり、社員は言われたことはやるが、自ら発することなく沈黙の態度である ・意識の矛先は過去の経験との対比であり、自分の頭の中から出ることなく周囲に意識を向けない ・社員は孤立しているため、潜在的な職場の問題が見えにくい ・職場に発生した問題に対して他人事である ・その問題解決をドライブする人は極わずかで、解決に協力する人を得にくい
このレベルの職場は、組織風土が最も老化した状態です
この職場の組織風土改革の活動の中心は、次のレベル1に引き上げることとなります
レベル1であるかどうかを測る質問項目を用意し、その質問項目に当てはまらないことが社員意識調査で分かったら、その職場はレベル0であると判断します
よって、このレベル0を判断する質問項目はありません
レベル1:事務的な職場
このレベルの職場は次のような状態です
・社員は周囲の人々とコミュニケーションを行うが、他者に対して特定の印象を与えるために、自己に関する情報を調整して伝える ・交換される情報は事柄が中心で、その背景となる思いなどの文脈を述べることがなく、聞き手もその思いに関心を寄せることはないため、表面的である ・職場の問題の原因は周囲の人々にあるとか、組織の構造の問題と考えがちで、自分に意識を向けることがなく、問題の向き合い方は他人事である ・情報の伝達は行われるので、問題の見え方はレベル0より改善されているが、問題の対処に無力であると感じており、解決姿勢は諦めである ・ゆえに解決に協力する人を得にくいことに変わりなく、問題解決をドライブする人は少ない ・新しいことにチャレンジして変えるより現状維持、もしくは「できる範囲での改善」でとどまり、モチベーションが低い ・予定調和的な態度が変革の芽を摘んでいる
このレベル1の職場は、レベル0の職場と比較して
- 社員同士のコミュニケーションが行われている
- 会社の決定事項など業務に関わる情報は提供されている
といったところが改善されています
よって、このレベル1に達成しているかどうかを判断する質問項目は以下のものが挙げられます
- この職場では、自分の意見を素直に伝えることができる
- この職場では、社員の意見や考えに耳を傾けるための取り組みが行われている
- 上司は、重要な決定事項についてその背景や理由を社員に説明している
- 社員は、自分の業務に関わる情報が常に提供されている
- 上司は、社員に対して業績向上に必要なフィードバックを与えている
在宅勤務が行われている職場では、「この職場では、在宅勤務であっても上司と部下のコミュニケーションががあると思う」という質問があっても良いでしょう
レベル2:熱意のある職場
このレベルの職場は次のような状態です
・社員は周囲の人々と信頼関係で結ばれており、ホンネのコミュニケーションが行われる ・ある事柄についての自分の考えや意見を述べることができる ・周囲からのフィードバックを得ることによって、自分の意見や判断能力が社会的に妥当なのかどうかを確認することができる ・自分が「したい」、あるいは相手からの「してもらいたい」といった意図や期待が共有でき、お互いの思いを共有できる関係に発展させる ・自分の意識は自分に向いているため、問題解決を他人に求めるのではなく、「何を自分はできるか」という自分事の捉え方である ・上司は組織のあるべき姿と、社員の行動指針となる共通の価値判断を示しており、社員はポジティブな雰囲気で包まれた組織の一体感を得ている ・社員はその中で自分が何をやればいいのかが分かっており、仕事を通じて達成感や成長感を得ている ・業務やプロセスは効率的に行われるが、固定観念に固執するあまり、環境変化に合わせた抜本的な変革が遅れがち
このレベル2の職場は、レベル1の職場と比較して
- 事柄だけのコミュニケーションでなく、意図や期待と行った社員の思いも含めた自己開示が行われている
- 上司は、決定事項の伝達だけでなく、社員がポジティブな雰囲気に包まれるような組織のあるべき姿を指し示している
- 社員は、自分のすべきことに集中しており、物事を自分事に捉えている
といったところが改善されています
よって、このレベル2に達成しているかどうかを判断する質問項目は以下のものが挙げられます
- 私は、ある事柄についての自分の考えや意見を述べることができる
- 私は、周囲からのフィードバックを得ることができ、自分の意見や判断が社会的に妥当なのかどうかを確認することができる
- この職場は、ホンネのコミュニケーションの繰り返しにより、自分の「したい」、あるいは相手からの「してもらいたい」といった意図や期待が共有されている
- 上司は、社員の行動指針となる共通の価値基準を示し、組織のあるべき姿を語り、ポジティブな雰囲気にしている
- 私は、組織のあるべき姿に向けて自分が何をやればいいのかが分かっており、仕事を通して達成感を得ている
- 私は、問題解決を他人に求めることよりも「自分は何ができるか」を考えることが多い
在宅勤務が行われている職場では、「私は、仕事の内容に応じて働く場所を選ぶことができる」という主体性を問うような質問を入れても良いでしょう
レベル2の職場は、ユヴァル・N・ハラリ教授が教えるところの「人が持つフィクションを信じる力」によって組織全体が結ばれる一体感があります
社員の熱意を感じる職場であり、これでも十分組織風土が改善されていると言えます
レベル3:変革し続ける職場
このレベルの職場は次のような状態です
・環境変化に感じやすく、プロアクティブで、社員は活き活きとし、先を見据えている ・過去の慣習や固定観念に囚われず、常に業務の目的・方法・必要性を問い直し結果に結びつけている ・皆で共有できる思いで繋がりつつも、社員同士は互いの考えの違いを尊重でき、色々な考えを持つ人たちから刺激を受けながら、新たな価値を創造できる ・この新しいことにチャレンジする原動力が企業価値を生み出し続ける ・上司は、部下から何か変革の提案があると、行動を起こすリーダシップがあり、グループ間および部署間での連携が効果的に行われる
組織というものは老化します
このレベル3の職場がレベル2の職場と異なるところは、老化に対する再生メカニズムが組み込まれていることです
よって、このレベル3の職場は、レベル2の職場と比較して
- 環境変化に敏感で、先を見据えた活動を行っている
- 問い直しによる変革のメカニズムが組み込まれている
- 多様性の中から新たな価値を創造する
といったところが改善されています
よって、このレベル3に達成しているかどうかを判断する質問項目は以下のものが挙げられます
- この職場は、環境変化に敏感で、常に先を見据えて変革を起こす取り組みが行われている
- この職場は、過去の慣習や固定観念に囚われず、常に業務の目的・方法・必要性を問い直し結果に結びつけている
- この職場は、オープンで個々人の違いを受け入れ、そこから新しいアイデアを生み出そうとする取り組みが行われている
- 私は、不測の失敗をしたとしても、新しいことにチャレンジできる
- 上司は、部下からの変革の提案があると、行動を起こす
- この職場は、職場外の部門とのコミュニケーションが行われ、部門間の調整ごとが解決される
評価の仕方
以上が、私の考案した組織風土再生モデルにある4つの職場のレベルに合わせた質問項目となります
これらの質問項目を元に社員意識調査を行います
回答の選択肢は
- 強く思う
- ややそう思う
- あまり思わない
- まったく思わない
を用意しておき、好意的回答(この場合は、1と2)の割合を集計します
その結果によって、組織風土の状態がどのレベルにあるのかを判断します
実際の社員意識調査では、レベル0〜3の間で明確に分けられる結果が得られるとは限りません
その場合は、ある程度の傾向を把握する程度にとどめておき、他の調査方法(個別面談、組合による調査など)と併せて評価します
既存の社員意識調査を活用する
会社によっては、既に社員意識調査を行われているところがあります
そこで使われている質問項目が上記のレベル別の質問項目に類似するものもあるでしょう
それらの類似する質問項目を調べることで、組織風土再生モデルのどのレベルにあるかを評価することができます
次回は、次の調査方法である「個別面談」についてお話しします(つづく)